アジア人に多い胃がんは、日本でも多くの先進的研究がなされてきました。昔は開腹手術でしかがんを切除できませんでした。現在は、早期のものは内視鏡(切開剥離法:ESD)や腹腔鏡下に切除できるようになってきています。胃癌の手術は多くの病院で取り組まれており、技術はほぼ標準化されています。

手術は、診断する内科医や手術をする外科医との連携ばかりでなく、手術室や病棟の看護師、麻酔科医、薬剤師、栄養士、手術前後のリハビリテーションを担当する理学療法士など、多くの人や部署の協力をもって実現するひとつのプロジェクトといえます。手術がうまくいったかどうかは、その後の入院日数をもって推測することができます。胃がん手術後の日数を取り上げるのは、手術のなかで最も代表的な胃がんの手術をもってその病院の手術をめぐる技術やチームのありようを推測することが目的です。当院のクリニカルパスでは、腹腔鏡下胃切除術は、術後10日目、開腹手術は術後14日目~17日目を退院目標としています。

胃がん手術後の在院日数延長の大きな要因は、術後合併症の発生であり、治癒までに長期間かかる合併症の代表は、縫合不全(縫い合わせがくっつかないこと)や膵液瘻(膵に接したリンパ節を切除した付近から消化液である膵液が漏れ出ること)で、ひとたび発生すると治癒までに1か月~2か月を要します。在院日数を平均で表した場合、対象の方が少ない場合特に、日数のばらつきによって平均値はかなりの影響を受けます。昨年までは、ほぼ全国並みの数字でしたが、2013年は約33日とやや延長しており、治癒までに長期間を要した術後合併症の事例が示唆されます。特に長くかかった事例については振り返りの検討が必要かもしれません。

術後合併症は、外科医の技術的要因と患者さん側の要因(具合の悪さ)が複合的に影響して生じます。胃は食に直結した臓器ですので、進行した胃がんの患者さんは、食事が通らず発見時にすでに栄養不足に陥り、手術リスクが高くなります。また、現在は年齢が高齢でも、食べる楽しみを失わないよう、可能であれば超高齢のかたにも手術が行われる時代です。今後は、高齢のかたやリスクの高いかたに対し、合併症の発生を最小限に食い止めるべく、周術期の工夫や手術手技の研鑽にチームで取り組む必要があります。

指標の計算式、分母・分子の解釈
  各指標の計算式と
分母・分子の項目名
解釈
分子 胃がん術後患者の術後在院日数の総和 胃がん術後(手術日を含まない)から退院日までの日数
分母 胃がんの手術を受け当該月に退院した患者数 計測期間内に「退院した」患者のうち、「胃がん」を主病名として入院し、入院中に全身麻酔による手術治療(開腹もしくは腹腔鏡下による胃切除術、胃部分切除術)を受けた患者数
医療の質向上・公開推進事業」データより
(全日本民医連 2011年60施設、 2012年70施設、 2013年83施設参加)
年度 最大値 中央値 最小値
2012年 88.1日 26.9日 7.0日
2013年 53.6日 24.4日 16.0日