産業医学センター

仙台市青葉区上杉3-2-28 アクス上杉3F

塵肺1問1答

A. 心臓と肺の形態と機能

  • すべて開く
  • すべて閉じる

◎肺の構造と機能

Q1. 気管から肺胞迄の構造は
A1.
肺は両側にあって、中央の気管を共通にして、胸骨中央、心臓の上にて2分岐します。その後気管支は、約9分岐し、やはり約9分岐する細気管支を経て、肺胞に達します。気管支には軟骨があり、細気管支にはありません。細気管支には、壁に肺胞が覗く呼吸細気管支が、4分岐程有ります。肺胞は肺胞道、肺胞嚢からなります。
Q2. 肺胞の数は、構造は
A2.
肺胞は、酸素の取り入れと炭酸ガスの排出の為、多数の袋からなり、その数は、約8億個、表面面積はテニスコートにも匹敵する広さとなっています。
Q3. 肺胞の機能は
A3.
酸素を取り入れ、炭酸ガスを出す機能の他、肺のもう一つの機能には、気管支を息をはいている時も開いているようにしていることです。肺は、抵抗感なく膨らみ、縮む事が出来る繊維、弾性繊維に富み、これが、バネの役目をも果たし、呼気時に気管支の閉塞を防ぐのです。気腫化とはこの繊維の破壊を意味し、呼気の排出困難につながるのです。

◎肺の構造と機能

Q4. 心臓の構成はどうなっていますか
A4.
心臓は、片手程の大きさで、左右にそれぞれ心室と心房を持ちます。心室はポンプの働きをします。空回りしないように、血液をいったん溜めている所が心房です。
Q5. 血流は
A5.
左心系は全身に血液を送り、右心系は、酸素化と炭酸ガス排出等の為、肺に血液を送ります。
Q6. 肺の障害の心臓への影響は
A6.
左心系の障害は、肺に様々な影響を及ぼし、肺に障害があれば、右心系に影響が出ます。このように密接な関連を有しています。

◎粉塵除去機能について

Q7. 鼻の役割は
A7.
鼻には、鼻毛があり、大きなほこりは、それで、捕獲してくれます。又、粘膜によって、湿気を与えて、重くしたり、互いにくっつけたりして、ほこりが、そのまま肺の奥迄到達するのを防いでくれます。
Q8. 気管・気管支の役割は
A8.
気管支、細気管支の表面には、線毛があり、異物の排除に務めます。又、気管支腺、杯細胞があり、粘液を分泌し、やはり「粉塵」をまとめあげ異物の排除に務めます。
Q9. 肺胞の役割は
A9.
肺胞迄届いた「粉塵」は、大抵小さい粒子なので、呼気に乗って体外に、排出します。残ったものは、肺胞周辺に存在したり、集まってくるいろんな細胞が異物として認識して対応します。
Q10. マクロファージの役割
A10.
肺胞での、異物除去の主役です。別名「喰食細胞」「ゴミ細胞」と呼ばれる位です。「粉塵」を取り込んだマクロファージは、細胞内で、処理出来ず、免疫細胞等を呼び、なんとかしようとします。異物を取りこんだ細胞が壊れると、別のマクロファージが喰食します。そのまま気管支系に運ばれて体外に出るものもある反面、体内に、主にリンパの流れに入るものもあります。
Q11. リンパの役割は
A11.
肺のリンパは、外側に近い所では、胸膜(肋膜)に沿って上方に流れ、深部は、中央(肺門)に向かって流れます。リンパ内での免疫防御機構の働きと共に、「粉塵」は、リンパ節に貯められて行きます

B. 塵肺とは

  • すべて開く
  • すべて閉じる

◎ 塵肺の定義

Q12. 塵肺法での定義は
A12.
「粉塵を吸入する事によって肺に生じた繊維増殖性変化を主体とする疾病」とされています。
Q13. 労働基準局長通達(基発第250号)は
A13.
「粉塵を吸入する事によって肺に生じた繊維増殖性変化を主体とし、これに気道の慢性炎症性変化、気腫性変化を伴った疾病をいい、一般に不可逆性のもの」の病理像です。
Q14. 塵肺法と局長通達の関係はどうなっていますか
A14.
塵肺法の定義は、粉塵吸入に対する生体内に生じる病態の中核を明示しています。局長通達は、塵肺患者の種々の症状、障害の根拠たる病変を附置する形で定義しています。
Q15. 現在の塵肺法の位置づけをまとめるとどうなっていますか
A15.
塵肺法の定義に、局長通達を加味した「定義」は、粉塵の種類、量、吸入状態、労働者の年齢、基礎疾患によって若干は違うものの、その本質を明示しています。慢性気管支炎は、病態の本質であり、「合併症」に追いやるべきものでは無いことを主張している定義でもあります。生じた病理変化はが不可逆性であって、それに伴う各種の症状には治療の意義があるのと、もし粉塵環境によって不可逆的な障害が惹起されたなら、その責任は、良くない労働環境にある、と位置づけていることになります。

◎臨床&病理上の定義

Q16. 塵肺発症迄の経過は
A16.
吸入された「粉塵」は、一部が気道に付着します。それの多くは、気管支粘膜の上皮細胞の線毛の働きで痰に混じって喀出(排出)されますが、肺胞内に達すると、壁から出てくるマクロファージがこれを取り込んでしまいます。「粉塵」を取り込んだ細胞は、肺間質のリンパ管に入り、リンパ節に運ばれ、そこに蓄積されます。ここ迄は、防御反応でもある訳ですが、特に珪酸では、リンパ腺の中で、細胞を増殖させ、その結果細胞が壊れて膠原繊維が増加してきます。膠原繊維は、増殖すると、そこの細胞は組織を破壊します。リンパ腺がこうした破壊により閉塞されますと、その後吸入された「粉塵」は、肺胞腔に蓄積するようになります。こうなると、肺胞壁が壊れ、繊維芽細胞が出現し、繊維が形成され、ついに結節が出来ます。つまり、防御反応が障害へと転化していきます。
Q17. 繊維性増殖性変化とはどういうものですか
A17.
繊維性変化とは、臓器組織の局所に繊維成分が増加した状態をいいます。増殖性変化とは、組織、臓器を構成する繊維、基礎物質が増加したり、肉芽組織等の組織の増加をいいます。「肉芽」とは、異物を器質化する場合、組織の欠損を補填する際に、それに隣接する臓器組織にある毛細血管、繊維芽細胞からなる組織が形成され、喰食細胞、好中球(白血球)も加わることとなり進行していきます。

◎肺の各部位の変化

Q18. 肺胞の主な変化は
A18.
まず、粉塵巣ですが、気管支系から入って来た「粉塵」「粉塵を喰食しているマクロファージ」等が集まってきて「巣」となしてきます。次に、肺胞炎があります。「粉塵」を異物として認識して集まるマクロファージ、それが、破壊されて細胞内の種々の物質が漏れ出し、炎症を生じてきます。その先は、繊維性増殖性変化へとつながります。それに、気腫性変化ですが、上位の気道の炎症性変化に伴なう閉塞に対応して出現する場合、「粉塵」の作用による肺胞壁破壊による場合があり、気腫化した肺胞壁も進行すると平滑筋に置き換えられる事があります。
Q19. 太い気管支の変化の特徴は
A19.
比較的太い気管支における気管支腺、杯細胞の肥大、分泌昂進、上皮中の基底細胞の増殖、偏平上皮化生、弾性繊維束の肥大、輪状平滑筋の肥大(=慢性肥大性気管支炎)、長期化しての輪状平滑筋を中心とした萎縮像(=萎縮性気管支炎)が目立ってきます。以上が、慢性気管支炎の病理像でもあります。
Q20. 細い気管支の変化は
A20.
上皮細胞の粘液分泌細胞への変化、輪状平滑筋の肥大、気管支粘膜下組織の繊維化が生じます。
Q21. 続発性気管支炎とは何ですか
A21.
医学上の病名には、ありません。あくまでも「塵肺法」の中の用語です。法によれば、通常の塵肺の病気は治らないもので、細菌の感染の合併が生じた状態を指して、「続発性気管支炎」とし、具体的には、膿性痰が早朝1時間に3ml以上出ていることとされています。
Q22. 慢性気管支炎と続発性気管支炎との関係は
A22.
医学的病名には、「原発性」と「続発性」という分類があります。しかし、塵肺における続発性気管支炎というのは、少々事情が違います。そもそも、塵肺の病気の本質には、慢性気管支炎が存在していることは、塵肺法の補足の局長通達で明示されています。又、認定申請の際、診断する為の問診票には、BMRC(英国医学協会)の「冬、毎日、咳・痰有り」とするいわゆるフレッチャー基準が検討されています。そもそも「続発性」に気管支炎が合併しようがないといって良い訳です。細菌感染は、短ければ、数日の抗生物質で軽減するものも多いです。よく「3ヶ月で治癒する」といった「期限付き」の見解が裁判の証言等で語られているようですが、弱毒菌の感染や細気管支炎の合併により、3ヶ月にとどまらず、数年以上の経過で膿性痰を持続することも少なくないのが実態です。「合併症」に無理に入れて、3ヶ月という形式的な「治癒見込み」をたてることは、混乱の元と言わなくてはなりません。
Q23. 血管系の変化は
A23.
珪肺を中心として、塵肺病変の中核は、肺内に侵入・沈着した粉塵に対する除去作用が、血管周囲で起こっています。様々な免疫・抗炎症物質による活動にも拘らず、粉塵の処理が出来ず、逆に、血管の破壊を生じた形での肉芽性変化を生じ、結節となり(塵肺結節)ます。
Q24. 肺性心とは
A24.
肺末梢での血管の破壊は、次第に、中枢側の血管にも内圧の上昇を余儀なくさせていきます。合わせて、塵肺の進行は、肺自体の繊維性変化の進行、気腫性変化の合併等により、肺循環に影響を及ぼし、特に、右心系の血管、心臓の肥大性変化を生んでいきます。これが、通常の心肺機能にも関わる程度になると、「肺性心」となり、全身からの血液還流の機能にも障害を生じるようにまで進展してしまいます。
Q25. 全身の変化は
A25.
肺内に入った粉塵はリンパの流れに入ると共に血行性にも全身に散布され肝臓、脾臓、骨髄等に肺外珪粉症を形成します。肺癌以外の他臓器癌や自己免疫疾患・膠原病の合併が多いというという報告が見られています。

C. 塵肺の特徴

  • すべて開く
  • すべて閉じる

 

Q26. 症状の概要は
A26.
咳,痰,息切れ、呼吸困難、動悸等が中心です。
Q27. 咳の特徴は
A27.
粉塵を吸入する毎に、その刺激や喀出の為に生じます。その後、気管支病変によって痰が恒常化すると、喀出の為にも咳をするようになります。
Q28. 痰の特徴は
A28.
気管支の病変は、塵肺において良く見られますが、その中でも、気管支腺の肥大、杯細胞の肥大、とそれによる分泌亢進が最も目立っています。その結果痰が増大します。周囲の病変による血管の閉塞や血管それ自体の破壊によっても分泌物の増加が見られ、それが気道に出てきて「痰」の増加となります。
Q29. 息切れの特徴は
A29.
この症状は、肺と心臓の障害で最も現れてきます。肺では、繊維化による「硬化」に対してや気道病変(閉塞性障害)、酸素不足に対して、心臓では、肺の変化の2次的障害(右心不全)で生じます。
Q30. 呼吸困難の特徴は
A30.
感じ方の違いは有りますが、その要因は、「息切れ」と同様です。
Q31. 呼吸困難の分類は
A31.
Hugh-Jones分類で、判定します。
  • 第Ⅰ度:同年齢と同様に仕事ができ、歩行、登山あるいは階段の昇降も健康者と同様に可能である。
  • 第Ⅱ度:同年齢と同様に歩くことに支障ないが、坂や階段は同様に昇れない者
  • 第Ⅲ度:平地でも健康者並みに歩くことが出来ないが、自己のペースなら1km以上歩けるもの
  • 第Ⅳ度:50m以上歩くのに一休みしなければ歩けない者
  • 第Ⅴ度:話したり、着物を脱ぐのにも息切れがして、その為屋外に出られない者
Q32. 動悸の特徴は
A32.
安静時に生ずる時は、心臓の障害が強い場合、強い酸素不足によって、動作時の場合は、その際の心臓機能の困難や低酸素により生じます。

◎塵肺の不可逆性とは

Q33. 不可逆性の意味するところは
A33.
「塵肺は不治の病」と言われますが、その意味は、肺内に形成した塵肺結節、肺の繊維化、慢性気管支炎、肺気腫は、消滅せず、むしろ離職後ですら進行するし、それは、それぞれ病理変化の合わさった形での障害と言えます。
Q34. 可逆性(変わりうる所)はどこにありますか
A34.
治療の目標にもなる訳ですが、一つは、症状の軽減にあります。症状の中心である「咳」に対する「鎮咳剤」は、咳の理由である「痰」を出し安くするとか減らすとか、気道の過敏性・攣縮の軽減等で軽減出来ます。「痰」の排出改善への吸入・加湿、体位ドレナージ等も有力です。環境改善として、室内外の粉塵対策、本人・家族等の禁煙も大切です。こうしたことは、気道病変の僅かづつの改善(可逆性)にもつながります。塵肺の症状がひどくなければ、歩行等により筋力の強化が計られ、心肺能力が回復し、 又、症状が改善するといった良い循環か生まれます。塵肺の症状が、安静では、比較的良いのを頼りにして動作時の症状を軽減する状態を作っていく、これはいわゆる第3次予防であり、生まれた変化が「可逆性」部分と言えます。

◎塵肺の進行性について

Q35. 塵肺進行の理由は
A35.
肺内に侵入した、粉塵は、肺胞迄達するとそれを除去せんとするマクロファージが喰食します。(それで喰食細胞とも言う)主に無機質の粉塵は細胞内で処理出来ずに一定期間を経て、細胞の方が破裂(破壊)し、次のマクロファージが喰食します。この作業が長時間続くことが、長年の進行の一つの根拠です。ある研究に依れば、この粉塵の引継ぎは20年以上も続いていることが実証されています。つまり、20年前に離職しても、その頃吸入した粉塵は、その間ずっと体内で活動源になっていた訳です。又、細胞の破壊の際に、様々な物質が放出され、これが情報源となって新たな成分が集結し、新たな反応が惹起されます。これも進行の理由になります。
Q36. 塵肺進行の病理の特徴は
A36.
肺胞に達した0.5-5μm程の粉塵粒子は、肺胞マクロファージに喰食され肺胞間質に侵入します。それらは、主としてリンパの流れに乗ってリンパ節に運ばれます。その過程で、単核球系の補充を介して肉芽腫形成にあずかります。リンパの流れに乗れずに肺胞付近に沈着した粉塵は、マクロファージを次々と破壊し、そこから繊維化推進物質(モノカインの一種、インターロイキン{IL}-I)を放出させ、繊維芽細胞を増生し、膠原繊維生成を促進させます。この変化は、気道では無く、肺内の血管周囲において顕著です。いわゆる珪肺結節が血管周囲にその血管を破壊しつつ存在する理由はここにあります。
Q37. 塵肺進行の研究の歴史的経過は
A37.
塵肺患者が粉塵作業の間はもちろん離職後も進行するという症例の報告は随分古くから少なくないし、医学的常識となっています。一方、その頻度や背景、要因の集団の分析は、多くありません。我が国で有名なのは、労研の海老原勇の報告です。我々も細倉鉱山離職後進行について分析報告しています。
Q38. 海老原勇医師の調査の概要は
A38.
「離職後の塵肺X線所見の進行と進展様式」(労働科学89'4Vol. . 65-4P221-247)が詳しい論文です。その骨子は、
  • 活動性結核の合併なく、少なくとも1年以上の観察期間のある238例の分析で、35.8%に進展を認めています。平均観察期間は、約10年です。気腫性変化も含めています。X線分類別では、1型は、34.7%、2型は、38.1%、3型では、50.0%、4Aでは、42.4%、4Bでは、24.0%でした。
  • 作業別では、隧道、金属鉱山、炭坑、石工の順で進行は高率。
  • 離職後年数短い人程増悪率高い
  • 観察期間長い程増悪率高い。5年未満では、25.0%、5~9年32.7%、10年以上で81.8%でした。
  • 離職20年を経ても進行を認めた例があります。
  • 1型では、離職後15年以上の12%の人が2型に、、2型では、15年未満の3%の人が、3型へ移行し、10%が4型へ変わっています。
  • 主なX線所見の変化の内容としては、粒状影の数の増加と大きさの増大、塊状巣の形成と増大、間質の繊維化、逆に粒状影の減少と消失(気腫性変化の間接的影響と考えています)
Q39. 細倉鉱山離職後進行の概要は
A39.
私共は、1987年の閉山を機会に離職した鉱夫で労災認定された(要療養)162名を対象に2人の呼吸器医師によって、レントゲン写真上の進行を検討しました。離職後最初の写真と1993年2月の間の変化を検討しましたが、平均観察期間は、4年9月、調査時点の平均年齢は、64.6±6.2歳、平均粉塵歴28.1±7.0年間。進行を認めたのは、24名、15%、PR2以上で、8.2 %、PR3以上で33.3%、新たに大陰影を認めたのは、5名でありました。進行したのは、全員21年以上の粉塵作業歴を有する方でした。総粉塵量も進行には大事な様です。離職後の期間が短く、離職時の年齢が若い群で進行が目立つことは、粉塵の肺内での活性が一つの要素である可能性を示唆しています。この点は、動物実験の成績と合致する傾向です。離職後10年を経た時期に、あるアミノ酸に放射性同位元素(例えば11C-メチオニン)を注射しまして、ポジトロンCTという装置で検出したところ、新たに「大陰影」が生じた例で、肺癌に匹敵する程の吸収量を示しました。かなりの長期間の「進展」が細胞レベルであることを眼で見える形で実証した訳です。一方、肺機能検査で、主に肺胞での障害を検出するとされる一酸化炭素での拡散能とそれに気道系の障害をも加味されているとされる肺胞・動脈血酸素較差(AaDO2)進行群と非進行群とで比較したところ、進行群は拡散能優位の成績にあって、塵肺の進行は、より肺胞領域で起こっていることが示されています。

D. 塵肺の診断の手順

  • すべて開く
  • すべて閉じる

 

Q40. 塵肺の診断の手順はどうしますか
A40.
主には、粉塵吸入歴、胸部写真、肺機能、症状、身体状況等から診断していきます。
Q41. 粉塵吸入歴の調べはどうしますか
A41.
作業環境に「粉塵」が存在する事が基本事項とされています。塵肺法には別表として、粉塵職場が明示されています。粉塵の 有無の他、坑内、鉱山、建屋等の基準があります。それらを、参考にしつつ、絶対化はしない立場も大切です。原因物質は、最も多い珪酸に限らず、多くの金属、有機塵には、塵肺を生じさせる性質が有ります。年代を追って、粉塵物質の吸入歴を明らかにしていきます。
Q42. 胸部写真の診断方法は
A42.
基本は、「粒状影」です。これは、塵肺結節または、その集合像です。他に、線状影、塊状影、気腫影、肋膜肥厚、リンパ節の石灰化等がありますが、これからは石綿や溶接肺、金属粉塵による塵肺に多い間質性変化が際立ってくるといわれています。国内にも標準写真が作成されていますので、それに基ずき、評価します。記載方法は、塵肺ハンドブック(労働省)を参照します。
Q43. 肺機能による診断は
A43.
塵肺結節形成や肺の繊維化により肺は硬化し、膨らみが悪くなります。それが肺活量の減少になって現れます。気道の障害は、比較的太い所は、一秒間に肺活量のどの位出せるかで見ます(一秒率)。細い気管支は、努力的に呼出した時に、それぞれの肺気量毎の呼気流速を記録し(フローボリュウム曲線)、その形といくつかの点出の流速値で評価します。塵肺法では、3/ 4の肺活量を呼出した点での流速値で、評価します(v25/身長)。肺胞や気道の障害の結果は、動脈中の酸素や炭酸ガスの量(分圧)で評価します。酸素や炭酸ガスは、換気の量で変わってくるので、それを考慮した式で、ある値をもとめます。(肺胞動脈血酸素較差)
Q44. 症状の評価は
A44.
先に示した症状について、程度やいつの頃からかという経過を粉塵作業との関わりで明らかにします。特に、呼吸困難度が重視されるが、今は、Hugh-Jonesの5度分類が用いられ、Ⅲ度の「平地を1キロメートル自分のペースでは歩けるが、同性、同年代の人と一緒のペースでは、息切れ、呼吸困難等でついて行けない」が基準線になっています。合併症としての気管支炎については、イギリスの慢性気管支炎の基準(国際的にも、我が国でも採用されている)である「冬、毎日のように咳や痰が出る」が重視され、痰については、量では、一日10ml以上(早朝一時間3ml以上)、性状(膿性痰の比率(1/3以上)が認定判定には重視されています。しかし他の季節に多くでる人や、一見膿性でなくとも、病原菌(類似気炎物質含む)を見ることがあるので注意します。
Q45. 身体状況は何を見ますか
A45.
診察の際の様子、例えば、歩き方(呼吸困難の状態)や喀痰の様子、浮腫も見るが、特に、低酸素の一つの反映であるチアノーゼ(青色症)とバチ指(慢性の低酸素の結果、爪の指先における角度の鈍化)を重視します。

E. 塵肺の治療

  • すべて開く
  • すべて閉じる

 

Q46. 塵肺治療の原則は
A46.
塵肺の特徴から、治療は、「更に加わる粉塵の負荷を避け」進行性を止める事に努めます。喫煙者では禁煙が基本ですし室内暖房ではきちんとした換気も大切です。不可逆的変化についてはむしろ「理学療法」残存する機能の維持、強化を計り「対症療法」で、日常生活の苦痛、困難の改善を計る、が、原則となります。
Q47. 塵肺治療の中身は
A47.
前項に述べたように粉塵を減らす事を第1とします。次に咳・痰対策、心肺能力向上、足腰の鍛え等が挙げられます。合併症の治療は当然です。
Q48. 粉塵を減らすには
A48.
管理区分の中にも謳われているように、作業環境に於ける粉塵吸入を極力避ける事です。喫煙は、本人はもとより、家人、同僚からのいわゆる間接喫煙の影響も減らさせます。家庭暖房の排気や道路粉塵の吸入も注意します。
Q49. 咳への対処は
A49.
咳は極めて大きなエネルギーを消費(浪費)し、強い苦痛の症状の一つです。特に、夜間の咳は睡眠の障害となり、体力の消耗の原因となります。咳止めを有効に使います。感冒や気管支炎も咳の原因ですから、その際は十分量を使用します。
Q50. 痰への対処は
A50.
咳は痰を喀出せんが為に生じるものでも有るので喀痰の容易な排出に力を入れますが、痰がある方、出難い方は、咳止めに頼らずに去痰剤を先行させます。それに加えて先に述べた「体位ドレナージ」の他、薬物療法、吸入療法、水分補給(お湯による気管支の加温、保温と脱水の予防)が組み合わせていきます。感染症が合併している時は、適切な抗生物質を使用します。
Q51. 「続発性気管支炎の治療が3ケ月を目途」ということが言われますが
A51.
塵肺ハンドブックには、「痰の1/3が膿性」といって痰の性状の方は必要条件にしている記載見られますが、3ケ月を目途といった期間の明示はありません。この見解は、以下の点で臨床的、治療原則として正確とは言えません。
  • 症状悪化は適宜、喀痰培養にて、原因菌を探り、抗生物質を投与するが、数日毎の検査によるのが普通です。
  • 我々の経験では、感染が明らかでも、原因菌が、同定出来ない事や痰が膿性でない事も有ります。
  • 慢性気管支炎、同細気管支炎、気管支拡張症では、比較的弱毒菌に依る感染が年余に渡って続く事や、やはり年余に渡っての化学療法が有効である事が、知られています。職場復帰や治療効果の向上が、休業補償の目的とすれば、始めから3ケ月等と限定する事は、正しい治療の為には有害です。
Q52. 心肺機能強化の意義は
A52.
塵肺は長くなるほど心肺機能の障害を生じます。又、息切れ等の為運動不足となり、足腰の筋力の衰えを来たし、より一層の呼吸困難感を自覚し、悪循環となりやすくなります。日頃より、喀痰排出を目的とした体操や体位ドレナージを励行させます。
Q53. 合併症の早期把握と対処の意義は
A53.
塵肺が心臓や膠原病、他臓器癌を多く発生している事を他で述べましたが、肺の機能が障害されているだけに、その影響も大きく、たとえ手術可能な疾患が見出だされても、低肺機能故に手術不可とされる事すら起こりえます。労災補償中に有効に対処可能にしておく事も、大切な治療方針です。

F. 塵肺管理区分決定手続き

  • すべて開く
  • すべて閉じる

 

Q54. 塵肺管理区分決定手続きは実際にどう進めるのですか
A54.
塵肺の症状の有無と内容、粉塵職場での労働の確認、レントゲン所見、肺機能所見、身体所見確認と基本的には、臨床・病理学的な診断過程と同じ様な形で進めます。
Q55. 管理区分決定においての塵肺の症状とは
A55.
咳,痰、息切れ、動悸等を把握します。
Q56. 管理区分決定においての咳の確認はどうしますか
A56.
咳が慢性的にあるかどうか。特に、冬の3ケ月位毎日あるかどうか、を確認します。そうした問診表があるので、それに記入します。必ずしも、冬に限ったことではありませんし、毎日でなくとも、その状態を確認して記載します。
Q57. 管理区分決定においての痰の確認はどうしますか
A57.
慢性的にあるかどうか。特に冬の3ケ月位毎日あるかどうか、を確認します。そうした問診表があるので、それに記入します。必 ずしも、冬に限ったことではありませんし、毎日でなくとも、その状態を確認して記載します。痰の性状は大切です。色はどうか、黄色、緑、茶色等の膿性かどうか、が大切です。MillerとJonesの分類で、主にはP1以上で適合と評価されますので、次にそれを示します。しかし、菌によっては、状態によっては有意菌があってもMであることもありますので、菌培養(喀痰培養)結果も重要な判断材料です。
Q58. MillerとJones の分類とは何ですか
A58.
塵肺法で採用されている痰の評価法です。
  • M1 膿性を含まない純粘液痰
  • M2 多少膿性の感のある粘性痰液
  • P1 粘膿性痰1度(膿が痰の1/3以下)
  • P2 粘膿性痰2度(膿が痰の1/3~2/3以下)
  • P3 粘膿性痰3度(膿が痰の2/3以上)
  • 量は、0=0
  • 1=3未満
  • 2=3以上、10未満
  • 3=10以上
というスコアが塵肺ハンドブックに有りますが、測定した量をそのまま記載して問題はありません。
Q59. 息切れはどう評価しますか
A59.
息切れ安静時と動作時で違いますのでその辺も聞きます。呼吸困難と共にHugh-Jones分類で、判定します。(Q31参照)
Q60. 動悸はどう評価しますか
A60.
安静時に生ずる時は、心臓の障害が強い場合、強い酸素不足によって、動作時の場合は、その際の心臓機能の困難や低酸素により生じます。私共は間外来で毎回又は毎月一回決められた項目での症状確認を行っていますが、その中にも「安静時動悸」が含まれています。このことで心肺機能の変化を探ることが出来ます。
Q61. 塵肺法での塵肺の診断の手順は
A61.
粉塵吸入歴、胸部写真、肺機能、身体状況が基本の項目です。
Q62. 粉塵吸入歴の確認は
A62.
塵肺法では、作業環境に「粉塵」が存在する事が基本事項とされています。塵肺法には別表として、粉塵職場が明示されています。粉塵の有無の他、坑内、鉱山、建屋等の基準があります。それらを、参考にしつつ、絶対化はしない立場も大切です。例えば建屋や坑内でないといけない、といった考え方が支配的ですが、いくら外での作業でも恒常的に粉塵を吸入する作業であれば「粉塵吸入歴有り」と判断すべきです。例え塵肺法で除外されても労働基準法による職業病認定の道もある訳ですので早々に検討を止めるのは正しく無いといえます。原因物質は、最も多い珪酸に限らず、多くの金属、有機塵には、塵肺を生じさせる性質が有ります。年代を追って、粉塵物質の吸入歴を明らかにしていきます。会社の就業証明や講習手帳等が参考になります。
Q63. 胸部写真の取扱いの基本は
A63.
「粒状影」「不整形陰影」「大陰影」「随伴所見」が読影の対象となります。
Q64. 「粒状影」の読影は
A64.
これは、塵肺結節または、その集合像です。1型~3型は、標準フィルム1、2、3と比較して判定します。
Q65. 「不整型陰影」の読影は
A65.
不整型陰影は、肺の間質における病変を現していると考えられています。これも標準フィルム1、2、3と比較して判定します。網状影、線状影、蜂窩式等もこのレントゲン所見の中に入ります。
Q66. 「大陰影」の読影は
A66.
大陰影4型は、大陰影(長径1cm以上)がある場合で、Aは、径の和が5cm以下、Bは、A以上で、面積の和が1側肺野の1/3 を超えず、Cは、面積の和が1側肺野の1/3 を超える場合です。
Q67. 随伴所見の読影は
A67.
随伴所見には、肋膜所見(pl)、肋膜石灰化(plc) 、心臓の変化(co)、嚢胞(bu)、空洞cv)、著明な肺気腫(em)、卵殻状石灰化(es)、癌(ca)、気胸(px)、肺結核(tb)があります。
Q68. 塵肺法上の肺機能の位置づけは
A68.
自覚症状の裏づけとして、用いられています。旧塵肺法では、塵肺が労作時に強い症状が出ることに関わって、負荷試験が取り入れられていましたが、負担の強いことから現法では、なくなり、替わって早期に末梢気道の障害を検出するとされる「フローボリューム」が導入されました。これと従来からのスパイログラムを一次とし、動脈血ガス分析を2次として評価されることになった訳です。
Q69. %肺活量とは何を見ていますか
A69.
胸郭内の肺の全容量を「全肺気量」といい、その中で、呼吸によっては、無くせない所を「残気量」といい、それを「全肺気量」から引いた量、即ち呼吸できる部分、活動している部分という意味で「肺活量」といいます。努力して、いっきに呼出した際の値を「努力性肺活量」、ゆっくりと吸ったりはいたりして測るものを単に「肺活量」といいます。一般に正常な成人では、両者は、ほぼ同じですが、年齢や病気、元気さでどちらかが大きい値を示す事があります。呼吸器の障害では、気道の閉塞があり、ゆっくり呼出する時より最大努力呼出でかえって残気が増えれば、「肺活量」が、「努力性肺活量」に勝ることになります。一秒率では大きい方を採用します。性、身長で算定した標準値と比較したものが%肺活量です。一般には、±20%以内が正常範囲です。少ないことは当然問題ですが、大きいからといって手放しで喜べるのではありません。後で述べる閉塞性障害があれば出し難さにつながるからです。
Q70. %肺活量による「著しい肺機能障害」基準の評価は
A70.
塵肺結節形成や肺の繊維化により肺は硬化し、膨らみが悪くなります。それが肺活量の減少になって現れます。即ち、%肺活量が減少してきます。
Q71. 「一秒率」とは
A71.
「肺活量」に対し、最大の努力で呼出した呼気曲線の内、最初の一秒間の量を「肺活量」の比で表したものです。「肺活量」は、2つの測定値(ゆっくり呼出と最大呼出)の大きい方を用います。これは、早足や坂道歩行の際の呼吸の様子を推定するもの、比較的太い気管支の様子を推定する指標です。
Q72. 一秒率による「著しい肺機能障害」基準の評価は
A72.
気道の障害は、比較的太い所は、一秒間に肺活量のどの位出せるかで見ます。最近国際的に使われるCOPDに対するガイドラインであるGOLDでは一秒量が重視され、標準値に対する%一秒量という値が注目されてきています。塵肺法ではあくまでも一秒率が評価の対象で、塵肺ハンドブックには性別、年齢別の基準値が示されています。これによって、肺機能障害の程度(F+、F++)を記載することになっています。
Q73. V25/身長とは
A73.
細い気管支は、努力的に呼出した時に、それぞれの肺気量毎の呼気流速を記録し(フローボリュウム曲線)、その形といくつかの点出の流速値で評価します。呼気量の最初から3/4 呼出した点では、努力の量によって、左右され難い事、末梢気管支に人工的に閉塞を作った実験で、流速の減少が見出された事等により有用とされてきた検査です。特に、最大の呼気努力をすると、呼気曲線の下降脚部分は一致することや、努力をさぼるとかえってV25等は良くなること等の優位性が本検査採用の理由のようです。
Q74. V25/身長による「著しい肺機能障害」基準の評価は
A74.
塵肺法では、この時点での流速値で、末梢気管支の障害の程度を評価します。性、年齢毎に定められている、基準に従って、「著しい機能障害=F++ 」「=F+」と評価されます。
Q75. AaDO2 とは
A75.
肺胞や気道を総合的に考慮してのガス交換の指標です。酸素や炭酸ガスは、換気の量で変わってくるので、それを考慮した式で、この値をもとめます。大気中の酸素の量(149 )、血液中の残った炭酸ガスを生むのに使われた酸素(PaCO2/0.83)、血液中の酸素(PaO 2 )の量から簡易式によって計算似て求めます。一般には、149 -PaO2-PaCO2/0.83で求めます。
Q76. AaDD2による肺機能障害の評価は
A76.
やはり、性、年齢によって、塵肺法上の基準が定められていて、その値によりF++ 、F+との判定がなされます。
Q77. X線像、肺機能と管理区分の関係はどうなってますか
A77.
a)X線区分1型+著しい肺機能障害なしは、管理区分2
  • b)X線区分2型+著しい肺機能障害なしは、管理区分3イ
  • c)X線区分3型+著しい肺機能障害なしは、管理区分3ロ
  • d)X線区分4A型+著しい肺機能障害なしは、管理区分3ロ
  • e)X線区分4B型+著しい肺機能障害なしは、管理区分3ロ
  • f)X線区分4C型+著しい肺機能障害なしは、管理区分4
  • g)X線区分1型+著しい肺機能障害ありは、管理区分4
  • h)X線区分2型+著しい肺機能障害ありは、管理区分4
  • i)X線区分3型+著しい肺機能障害ありは、管理区分4
となっています。
Q78. 身体状況は何を診(見)ますか
A78.
診察の際の様子、例えば、歩き方(呼吸困難の状態)や喀痰の様子、浮腫も見ますが、特に、低酸素の一つの反映であるチアノーゼ(青色症)とバチ指(慢性の低酸素の結果、爪の指先における角度の鈍化)を重視します。

G. 塵肺法における合併症

  • すべて開く
  • すべて閉じる

 

Q79. 何がありますか。
A79.
続発性気管支炎、結核、結核性胸膜炎、続発性気胸、続発性気管支拡張症の肺癌の6つが法に定められています。
Q80. 続発性気管支炎とは何ですか
A80.
塵肺法が規定する(作り出した)造語です。法によれば、既に不可逆的な病変を生じている塵肺病変の中で、治療可能なものの代表として「細菌感染」による気管支炎を挙げているのです。細菌感染です汚い痰、膿性痰が(Miller&Jones 分類でP1 以上)早朝(起床時から)1時間に3mlあれば、この「病気」に合併していると「認定」されることになっています。現実には、別項で紹介するこの「造語病名」の限界に根ざして、マイコプラズマ感染等では、必ずしも膿性でないこともあるでしょうし、早朝は脱水等で痰量が少なく朝食後が多いこともあるでしょうからその際は、本来の痰量基準の1日10ml以上に照らして記載するのが良いし、実際そういう記載が有効であった例を私自身が経験しています。
Q81. 結核はどういう位置づけですか
A81.
以前は、「塵肺結核」とされていました位、合併する人が多かったのです。私も結核病棟を担当して塵肺の方に遭遇しました。現在は、結核自体の減少からもあってそういう表現が無くなっています。しかし、塵肺治療中に、定期的な痰培養の結果に「非定形性抗酸菌」が結構見出されます。細菌では、結核でない種類の方が多い訳ですが、時折結核であることも実際あります。この場合結核として治療を必要であれば、合併症として治療出来ます。痰量が、続発性気管支炎の基準以下でも問題ありません。
Q82. 結核性胸膜炎とは
A82.
肺結核に随伴して起きることが多いのは当然ですが、肺レントゲンの所見は無く、胸水だけで疑われるべきこともありえます。痰の検査や胸水の検査、胸膜生検で確診に至ることもあります。
Q83. 続発性気胸とは何ですか
A83.
気胸は、特発性と続発性が分類にあります。前者は、おそらく先天的か幼児期に形成された嚢胞「=ブラ、ブレブ」の破壊で生じるもの、後者は、外傷等、他の原因で起きるものです。激しい咳の後等に気胸が発症すれば、外科治療やドレーン術の医療費を合合併症として請求出来ます。重症の塵肺の方での末期となる病気にこの疾患が挙げられます。
Q84. 続発性気管支拡張症とは
A84.
気管支拡張症は、先天性の他、幼児期迄の肺炎の治癒の過程や結核にも続発性に発症します。特に、慢性的に痰、特に膿性痰が多量に生じることでは、塵肺そのものと区別し難い状態でもあります。一般のレントゲン写真でも疑えますし、以前は気管支造影で、確診してましたが、現在では、より検査の負担の少ないCTで診断することが多いと思います。塵肺の結果、併存共にありえますが、前者とすべき場合に、続発性気管支拡張症とします。しかし実際の診療の場や認定作業で取り上げられることはまれだと思います。
Q85. 肺癌
A85.
塵肺と肺癌の関係は、様々議論を呼んできましたが、最初は管理3以上とされ翌年に管理2以上になりました。IARCの決定後長らくその考えの導入に消極的だった我国でもようやく合併症として扱われることになりました。塵肺の合併症としての療養給付(診断を含む)と年一回の手帳による健診とがあり、監督署によってはまだ混乱が残っているようです。

H. 塵肺の労災上の療養

  • すべて開く
  • すべて閉じる

◎塵肺治療の概要

Q86. 塵肺治療の原則的な考え方は
A86.
塵肺の特徴から、治療は、「更に加わる粉塵の負荷を避け」進行性を止める事に努め、不可逆的変化についてはむしろ「理学療法」残存する機能の維持、強化を計り「対症療法」で、日常生活の苦痛、困難の改善を計る、が、原則となります。
Q87. 塵肺の治療の主なものは何でしょう
A87.
  • 粉塵やタバコを避けること
  • 心肺機能の強化
  • 咳への治療
  • 排痰ドレナージ
  • 化学療法
  • 合併症治療等が挙げられます
Q88. 粉塵やタバコについて触れて下さい
A88.
管理区分の中にも謳われているように、作業環境に於ける粉塵吸入を極力避ける事、喫煙は、本人はもとより、家人、同僚からのいわゆる間接喫煙の影響も減らさせます。家庭暖房の排気や道路粉塵の吸入も注意します。
Q89. 心肺機能の強化策は
A89.
塵肺は長くなるほど心肺機能の障害を生じます。又、息切れ等の為運動不足となり、足腰の筋力の衰えを来たし、より一層の呼吸困難感を自覚し、悪循環となりやすくなります。日頃より、喀痰排出を目的とした体操や体位ドレナージを励行させます。
Q90. 咳への対処は
A90.
咳は、極めて大きなエネルギーを消費(浪費)し、強い苦痛の症状の一つです。かなりのエネルギーの消耗が知られています。咳の大きな理由に「痰の排出」がありますので、いきなり咳止めを出すのは良くありませんが、痰の少ない時期や夜間等消耗を防ぐ為に鎮咳剤の投与は必要です。
Q91. 排痰促進の方策は
A91.
喀痰の容易な排出に力を入れます。それには、先に述べた「体位ドレナージ」の他、薬物療法、吸入療法、水分補給(お湯による気管支の加温、保温と脱水の予防)が組み合わされていきます。感染症が合併している時は、適切な抗生物質を使用します。
Q92. 化学療法(抗生物質)投与の考え方は
A92.
  • 症状悪化は適宜、喀痰培養にて、原因菌を探り、抗生物質を投与するが、数日毎の検査によるのが普通です。
  • 感染が明らかでも、原因菌が、同定出来ない事や有意の菌が培養で検出されても、痰が膿性でない事も有ります。我々の経験では、膿性痰でない(見た目で白い)場合で、痰の培養成績を記載し、「要療養」と認められた症例もあります。
  • 慢性気管支炎、同細気管支炎、気管支拡張症では、比較的弱毒菌に依る感染が年余に渡って続く事や、やはり年余に渡っての化学療法が有効である事が、知られています。
Q93. 合併症の早期把握と対処について
A93.
塵肺が心臓や膠原病、他臓器癌を多く発生している事を既に述べましたが、肺の機能が障害されているだけに、その影響も大きく、たとえ手術可能な疾患が見出だされても、低肺機能故に手術不可とされる事すら起こりえます。労災補償中に有効に対処可能にしておく事も、大切な治療方針です。

I. 塵肺法と運用上の問題点

  • すべて開く
  • すべて閉じる

 

Q94. 続発性気管支炎は「3月で治る」の考えについて
A94.
慢性気管支炎と続発性気管支炎の関係の所で述べましたように、前者は、塵肺法上に生み出した造語ですから、医学的にどの位で治る、というのは、そもそもそぐわないことです。塵肺の定義には、既に慢性気管支炎の存在がその中核にある点から見れば、慢性の咳・痰自体は、塵肺の本質です、労災認定の際の前提となってさえいますから、消え難い症状な訳です。もし、『続発性』を、「細菌感染の合併=膿性痰」ととらえますと、起炎菌にあった抗生物質により数日で改善することもありますし、弱毒菌による慢性炎症により数年以上、膿性痰を見る人もあり得ます。『続発性気管支炎』とは、「塵肺の咳・痰自体を要療養の対象にしたくない」という「どこかで打ち切れる様に、という政治的判断」から生み出された「作られた病名」でしょうか。少なくとも、「3月で治るはず」という解釈は、極めて的はずれの見解と言えましょう。
Q95. 「管理区分」は、「健康管理区分」で「障害の区分」でないでしょうか
A95.
塵肺法が、他の職業病の労災認定と大きく違う点だと思います。我々が実証し重視している「離職後進行」の事実から見て、「管理区分2」では、「粉塵の軽減(の配転)」、「管理区分3イ」の「粉塵職場から離す(配転)」という措置は、塵肺の進行性を軽視した指導区分だと言えましょう。又、塵肺法の管理区分は、主として「レントゲン写真」の密度の分類に依っていますので、他の症状や検査成績が相対的に軽視されています。レントゲン写真だけみても、本来の繊維性変化を現しているはずの間質性肺病変、塵肺法では、 不整形陰影として記載する訳ですが、軽視されている傾向にありますので、この点でも「障害」の程度を十分反映していないと言えます。更に言えば、塵肺患者の苦しさは、労作時に最も顕著にあらわれるにも拘らず、肺機能の評価で、最も重視される動脈血ガス分析は、安静時の検査ですし、肺胞・動脈血較差(AaDO2 )の基準が、 特に厳しすぎる(平均値+3倍の標準偏差)為もあって、在宅酸素療法の患者さんよりも悪くないと「著しい肺機能」と認定されない点も正当な「障害区分」に成り得ていないといえます。
Q96. 「要療養」は、どういう損害といえますか
A96.
管理区分4は、通常の呼吸器疾患の場合と比較としても、かなりの 重症といえる「損害」と言えます。レントゲンでの「大陰影」は、既に、肺の中での塵肺小体がかなりの数融合し、繊維増殖性変化が進行している状態です。肺機能で、「要療養」と言える基準は、「%肺活量、一秒率、V25の3つがあります。%肺活量では、60% 未満ですし、一秒率では、およそ性・年齢で基準が示されていますが50%位で、それは、息切れの強い疾患で知られる肺気腫に関する研究会の厳しい基準よりも多くの年代で更に厳しい値になっています。V25は、塵肺法運用のフロ-チャ-トで、明らかに「著しい障害」に評価されるように示されているのに、現実には、そういう風には、運用されてはいません。管理2、3で「要療養」になる「続発性気管支炎」については、、Q93に示しましたように、「造語」ですが、慢性の咳・痰があり、 加えて、平地歩行もかなり制限された早さでやっと歩ける状況(いわゆるHugh Jones分類で三以上)に加えて、汚い痰が毎日出て、抗生物質を服用する状態となりますから、これも、かなりの「損害」と言えましょう。私が患者さんを診ていると、やはり、塵肺の方が一番汚い痰が多いと思います。塵肺法の基準からははずれますが、その痰の色が白かったり量が少なくとも痰が出にくいとその為の咳で苦しむ患者さんもいる訳で、この場合も本来は「要療養」とすべきだろうと思う訳です。
Q97. レントゲン写真診断での日本の分類がILOの分類より甘いという見解や読影技術が低い為により多くの認定患者を生んでいるのでは、という見解は
A97.
多くの医師は、現在、日本の塵肺法に沿って診断書を記載し、労働省(中央災害防止協会)の推奨する我が国の「塵肺標準フィルム」にその判断を求めているのに対して、裁判等では、日本で手に入らないILOの「塵肺標準フィルム」に比し、あたかも随分甘い基準で、塵肺を乱造しているかの如くの発言を見るのは、根拠のない暴論です。もし、そういう意見があるなら、日本の標準写真自体を変える提言を、労働省にすべきであって、標準写真に沿って診断する医師をやりだまに挙げる様な非難は止めるべきです。諸外国との基準の公正化、共通化は当然希望する所ですが、中央塵肺審査医による研修も日本の標準写真を用いて行われているのに、裁判等では、日本の標準写真が、「甘い基準」であって、塵肺患者を乱造している、それがあたかも国際的な基準から見た見解であるかの主張は当たらないと思います。1997年の京都で開かれたアメリカ放射線学会主催(ILOの基準に沿っての展開による)フィルムカンファランスでは、日本でのレントゲン分類が、全体の密度で評価しているのに対し、ILOでは、両肺野を各6区域に分け、その最大の所見で表現する、との指導があり、評価において日本の医師の評価よりILOの講師の診断が厳しいことがかなりありました。又、いわゆる不整形陰影については、日本の医師は悉く軽視して、度々是正の指示を受けました。講義の半分が、石綿肺と不整形陰影に当てられている点を見ても、むしろ1/0 や0/1 という分類に追いやっている中での不整形陰影(間質性病変)への再認識が急務かと思います。我が国が「読み過ぎか」の質問には、日本側の運営委員が、「一旦認定すると出口が無い今の塵肺法を良く考慮して行動して欲しい」と答えてました。塵肺のX線写真の読影技術が低い、という意見のついてですが、画像診断が難しいことは他の臓器、技術でも良くあり得ることです。被検者の体型、呼吸状態、機械、フィルム、現像条件によって当然変動し不安定になります。しかし、例えば、粒状影で1/1 以上であれば、通常レントゲン写真の読影に従事する呼吸器科の医師であれば、その存在を間違えることはまず無いとおもいます。それよりも程度の軽い状態でしたら、そして塵肺を疑うとすれば、もう一度撮影するとか、専門医に見て貰うとかするだろうと思います。肺は、空気を沢山含む厚みのあるものですから、一枚の単純で診断するには、元々限界があるのです。私は、敢えて、指示されている高圧写真だけでなく、平圧でも撮りますし、必要に応じて、横断面を以て細かく評価出来るCTも活用しています。そうした、主治医なりのそれぞれの努力の上にたって、より厳密な労災上の診断を下す上で、塵肺法では、地方塵肺審査医が、必ず提出されるレントゲン写真を複数で読影する仕組みになっている訳です。例え、主治医と審査医の判定が違っても、中央塵肺審査医の判断等が加わり、労働行政側の医師の判断が優先され、区分決定がなされています。主治医の水準が、塵肺を多く生む、ということが裁判等で、繰り返し言及されてきているのは、以上の仕組みへの無知か誤解あるいはあくまも政治的過ぎる発言に思われます。
Q98. V25/身長は塵肺の認定にとって意味のない検査という意見は
A98.
どうも数字が細かい為か、肺機能一般への正しい理解は、臨床でも塵肺診療でも弱い傾向にある気がします。裁判証言でも、V25/身長への評価を見ますと、ただ不安定とか異常が出過ぎるとか塵肺患者が意識的に悪くやれるとか発言しているのを見ます。まず、安定性は、我々の施設でもきちんとしたやり方で施行するとそれぞれの値は安定しています。多くの機械は、フロ-ボリュ-ムが図として表示され正当になされたかが分かるはずです。何回かの検査の中で類似の値を採用すべきで、そうすれば、かなりの安定性が得られます。次に、「異常がで過ぎる」についてですが、逆に言えば、塵肺患者の多くが、この検査の意義である末梢気道の障害が多いと言えます。今、労働省が提示する基準が甘すぎる、という主張が裁判でも良く出されますが、日本呼吸器学会が、1993年日本胸部疾患学会当時、全国の有数の施設での集計によると、かえって塵肺法での基準が厳しい、という結果です。「患者が悪い結果を生む為に努力をしないのでは」は、全くの無理解からの受けを狙った主張です。フロ-ボリュ-ムとは、最大の力で呼出するのが原則です。しかし、例えそれをさぼっても最後の下降脚は、ほぼ一致する(努力に拘らずという意味で、independent )のです。この点は、動物実験でも確認されていますし、我々のところで実際にやってみて貰っても実証出来ています。更に重要なことに、努力をさぼると肺活量が後半に温存され、かえって良くなるの傾向にあるです。この点も患者さんで示せています。この辺が分からない意見が多いのは大変おかしなことです。
Q99. 動脈血ガス分析で肺機能上の「著しい障害」の評価がなされている点について
A99.
この検査は、例えば、V25の2次検査と位置づけされています。そもそもこの2つの検査は、違った病変の検出に役立つものです。それを、一方が、他方の2次検査とするのは正しくありません。AaDO2 自体の基準の厳しさについては、Q94にも触れましたが、おそらく、呼吸器診療において、呼吸不全を扱っている医師にとって、安静時の肺胞動脈血酸素較差の基準を見れば、如何にこの値が厳しい水準にあるか、容易に分かるはずです。基準を決める際に、他の項目と違って平均値の3倍の標準偏差を加えているからです。塵肺の苦しさは、労作時にあることを前提にして、それを安静時の動脈血で判断するには、余りにもおかしな基準です。我々は、少し、鈍感な酸素飽和度が指標ではありますが、経皮的に酸素飽和度を測定する機械を用いて、歩行や階段昇降時の状態を観察してますが、安静時の酸素分圧よりかなり下がる方を見ています。そうした検査の導入をも視野に入れつつ、安静時の動脈血酸素分圧の基準そのものも、労作時、体動時状態の推定の検査として、基準の緩和が早急に必要かと思います。
Q100. 気道過敏性について
A100.
塵肺の呼吸困難に対して、喘息との関係でも無理解と偏見の主張がなされています。気道過敏性は、各種の疾患で見られます。喘息の典型的な発作の無い段階でも、気道過敏性が存在し、風邪の時に喘鳴と呼吸困難を見ることがあります。「喘鳴」がある塵肺患者さんは結構おりますし、それも慢性的な方や風邪等の際にのみみられる方もいます。もちろん喘息があってかつ粉塵職場に働いて塵肺に罹患したという場合も無くはないでしょうが、多くは塵肺に「気道過敏性」が加わって「喘鳴」が生じるのです。こうした状況に対して、アストグラフが、早期診断と典型発作に至らない為の予防に極めて有益です。アストグラフによって診断出来る気道過敏性には、「感受性昂進」と「反応性昂進」があり、典型的な喘息発作が見られない時期にその「型」と「程度」が分かるのです。喘鳴を伴う塵肺患者さん全てのアストグラフを施行すべきというのではもちろんありませんが、ある裁判での優秀な医師による証言に、「アストグラフは、単に研究の為にある手段で臨床の場(塵肺の診断や診療も含め)には無意味」というものがあるのをみました。その先生が、学会でもそう主張しているかは知りませんが、裁判というある意味で狭い社会で、事実と違うことを主張するのは賛成出来ません。塵肺自体も呼吸困難を伴うものですから、気道過敏性への対応は、より強い呼吸困難を避ける為にも重要と言えます。
Q101. 肺癌が管理4以外に合併症と認めれない件について
A101.
Q85にも述べますように2003年より肺癌がようやく合併症に取り上げられました。よって従来の文章は古くなっています。しかし、経過を知って戴く為に参考までに資料として残させて戴きます。 塵肺診療の中で、肺癌に多く遭遇するという報告が多い状況が続いています。疫学調査でも、予想値より有意に多いとする報告が目立ちます。中でも労働省関連病院である労災病院の10施設程が参加する2回の調査共、明らかに肺癌が多い結果でしたから、その時点で行政に生かして貰っていても良かったはずです。。肺癌が絡む裁判等では、被告企業や国は、それらは、タバコの影響であるとか動物実験に裏づけが無い限り有効でないと反論していました。タバコについていいますと、重喫煙者の肺癌のほとんどが扁平上皮癌が圧倒的なのに対し、塵肺に合併する肺癌の細胞種類では、線癌がの占める割合が多いとするいう報告が多い点からみても、有効な反論ではありません。喫煙率の少ない外国の鉱山でも肺癌合併の報告ある点も同様です。 動物実験については、1997年国際癌研究機関(IRCA)による「職業性の経気道暴露の結晶性シリカを人体における発癌物質と分類する」という重要な決定が公表されました。この報告書は、極めて多くの研究を吟味した上で有効とされた16ケ国の57の疫学調査と36の動物実験をもとにした報告書で、かなりの文量(英文で5百ぺ-ジ程)になっています。この発表に対して、「本報告は、単に一部の研究者の一方的な見解集で正当性が無い」「1997年京都国際職業性学術会議で、多くの批判を招いた」という「見解」が、我が国の「塵肺権威者(肺癌の専門家とは思えない方々ですが)」が、国側の医師証人としての裁判意見書の形で公表されています。「IRCA」は、WHOの正式機関であり、この報告は、かなりの時間を割いて慎重な検討を踏まえたもので、当然タバコはもとより同時に存在しうる発癌物質、例えばラドンの影響等も十分の考慮されています。不用意な感情論で本報告をけなすことは国際的な顰蹙(ひんしゅく)をかうことになります。 かなり長期間に渡って臨床的に多くの肺癌合併のを見てきた塵肺診療担当者の念願は、早期にその方向での補償規定が実現される必要があります。そもそも、何故、管理4の塵肺患者だけに限って肺癌が合併症として認定されてきたかすら明らかにされてはいません。そのことは、何故、管理3以下の塵肺患者さんだは、合併症として認定してこなかったかも塵肺法上では根拠がありません。ただ、裁判で、「疫学調査が不十分」と主張され、それが、多くの調査で実証されると、「動物実験が不十分」と言われてきました。今回のIARCの正式報告を機会に早い機会に「肺癌が塵肺の合併症」という行政上の措置がなされることを願う訳です。
Q102. (新)CRについて
A102.
現在多くのところでCRが導入されてきています。2003年7月に本法による塵肺申請に関して通達(基安労発第0711001号)が出されています。結構多くの施設ではそのことの考慮無しに購入・稼動に踏み切り、申請の際の写真として取り扱いを拒否されています。販売に当たって機械メーカーが何も触れずに売り込んだり、「近く大丈夫になる」という話を基に導入を進めさせた経由もあります。珪肺労災病院での塵肺画像診断講習かいでも「次の通達でおそらく緩和される」との情報が示されていましたが、実際はその逆に規制が強化されました。現在の基準は以下の通りです。「電圧110~140Kv、焦点被写体間距離180~200㎝、格子比120KV 前後で12:1、それ以上で14:1、読み取り画素数3500X3500pixel以上(画像処理条件は省略)」
我々が3種類の画素数で試験的に撮影したところ、一般人でも最高の画素数(高密度)での写真はあたかも塵肺があるが如くの写真が得られており、一定の基準は必要と言えます。だとすれば、あくまでも医療機関、ひいては塵肺患者さんに負担・悪影響が無いように行政がきちんと情報を公開・徹底し、業界をきちんと指導することが強く望まれると思います。きちんとした総括と改善策を示すべきと思います。
Q103. (新)CTについて
A103.
塵肺の病態としては塵肺結節や間質性変化が中心にあり、一方では気腫性変化も生じることは既に説明してきました。そうした病変を単純写真で見ますと胸郭20cm余りの厚さがある為にそれらによって形成されるレントゲン上の変化がお互いに修飾されたり打ち消しあったりすることがある訳です。そのことのより正確な診断技術としてCTがあると思います。私共は長らく塵肺の質的診断の目的でCTを活用してきました。特に、q1/0,0/1,p1/0,0/1等の軽微な所見の診断には有効でした。連携している放射線医の医療機関と共に検討し合うことでダブルチェックにもなり有意義です。事実数年前までは単純写真では明らかな塵肺所見が無い、無さそうな事例でもCT所見で所見があれば認定されていました。ところがこの4,5年は「CT所見のみでは認定出来ない」との立場で「業務外」の決定が続いています(何度か出し続ける度にその事を強調し認定された例もありますが)。ちなみに、呼吸器病学会(仙台)で教育講演「塵肺」をされた先生は、「じん肺の管理区分判定において、CTを活用できないか」という質問に対して「CTは現行のじん肺法では採用されていないのであって、CTにじん肺画像所見があろうとも、単純写真において否定されているならば、じん肺であるとはされない」と明確に答えています。こうした意見は塵肺の病態とレントゲンの特徴からして納得出来ない見解です。ところが同じ先生は、ある塵肺裁判での意見書の中では「塵肺診断ではCTが絶対であり単純で塵肺所見有りとされてもCTで無ければ塵肺ではない」と述べています。塵肺認定においてCTの扱いをそろそろはっきりさせて欲しい訳ですが、そうしたことに断を下す役目をもつ専門家がそれぞれの場面で使い分けている態度は納得出来ないところです。
Q104. (新)定期検査の内容と頻度
A104.
このところ塵肺患者さんの定期検査でおかしな状態が常態化し問い合わせも増えています。まず、心電図が認められないでいます。これ迄の解説にもありますように肺と心臓は隣りあわせで密接な関係にあります。にも係わらず労災請求で出しますと「否=不支給」とされてきています。私の診療所での検討では、85人中心電図(この2年分で)で正常者はわずか9人(10.6%)でした。異常所見全てが塵肺関連ということでないにせよ、年2回のチェックは認められるべきだと思います。胸部写真の回数は、多くのところでは2回だと思います。この点でも年1回で十分で無いか、との指摘がされています。珪肺労災病院での研修会で、この件についての質問があったそうですが、「専門家」は、「年1回で十分でしょう」と答えたというのです。私共の財団では主に3院所で300人程の塵肺患者を診て来ていますが、10%を超えて(累積ですが)肺癌が発生していますし、肺炎、無気肺、結核等の他疾患の合併を考慮すれば(急性であれば症状・状態で判断出来ますが)半年毎は決して撮り過ぎでは無いと言えます。痰の検査は私のところ(財団法人宮城厚生協会)では、年4回としています。この点でも年2回程で良いのでは、といった指摘がされてきています。塵肺法でいう「続発性気管支炎」は、塵肺に細菌感染が加わったものと考えられます。一般診療で急性であれば、適切な抗生物質を用いれば数日でかなり良くなるのが普通ですが、塵肺の場合極端にいえば「年中風邪」「年中膿性痰」ということも珍しくありません。「年中+急性増悪」が多い訳ですから通常の情報として年4回程の痰培養は必須だと言えます。結核合併もこの2年程増えていますが、それにも増して目立つのは非定型性好酸菌です。2002年に調査をした結果では、250名の対象者中52名(20.8%)で検出されていました。職場別の非定型性好酸菌検出率では、トンネル坑夫は55名中20名で36.3%、スレート坑夫は9名中3名で33.3%、鉱夫は186名中21名で10.7%でした。非定型性好酸菌検出=感染⇒発病ではないものの注意深い観察が必要なことは言うまでもありません。こうした疾病背景を正しく認識せずにただ保険財政から出発するやり方で制限をかけるのは大きな問題だと思います。