ヘルニアの治療と手術法

ヘルニアの治療と手術法

国内でのヘルニア手術件数は年間15万件(2004年)で、患者の8割以上は男性です。 このようにそけいヘルニアは、お薬で治すことはできず、根治的治療法は手術ということになります。 日本において鼠径ヘルニアの手術は長い間、欠損した筋肉や筋膜を自己の組織を利用して縫い合わせるバッシーニ法などの従来法が主流でした。 しかしこれらの方法は、術後の痛みやつっぱり感が強い上に、術後の再発率が高いことが問題とされてきました。

1990年代になって我が国の手術方法も変化し、術後の“つっぱり感”の軽減や再発率の低下が期待される 「人工の膜(メッシュ)を利用した腹壁補強術」に取って代わりつつあります。 これらの手術方法は米国で開発されたもので、加齢によって脆弱化した鼠径部近辺の腹壁を人工の膜(メッシュ)で内側から覆って腹壁を補強する手術方法です。 この種の手術では、使用される人工膜の種類や入れ方などによりいくつかの変法がありますが、 当院外科でもヘルニアの手術は、原則としてこのような「人工の膜を利用した腹壁補強術」を行っています。

体内に留置したメッシュには線維芽組織が成長し、 欠損部を硬く覆うようになって弱くなった腹壁を補強します。 この手術の特徴は、術後の痛みやつっぱり感が少なく、術後2時間の安静で体動時の痛みはあるものの、 トイレに行ったり、食事もできるようになるだけでなく、 加齢によって筋肉や筋膜が弱くなっても補強材があるので再発率が低い点にあります(再発率は1 - 5%程度)。 手術時間も短時間(30 - 60分程度)ですむため、日帰り手術または短期入院が可能です。 「つっぱりがない」ことを英語でtension-freeということから「テンション・フリー法」とも呼ばれています。

従来法の手術は、ヘルニアの出口を糸で縫って塞ぐ方法で、弱った腹壁の補強の仕方も自己の筋肉や筋膜を逢着して補強する手術でした。 しかしヘルニアになる人は、もともと腹壁の筋膜が弱ったためにおきているわけで、このような弱っている筋膜を利用して腹壁を補強しても、 また再発が起こる可能性が高かったわけです。
  • 痛みやつっぱり感が強く、入院期間が長い。
  • 再発率が高い

人工膜を利用した新しい手術法の1例

kugel法(クーゲル法)

形状記憶リングに縁取られたポリプロピレン製の楕円形メッシュで内側から腹膜を覆い、腸などが出てくるのを防ぎます。 ポリプロピレンメッシュは40年ほど前から使用され、体内使用の安全性は確立されています。

従来法との違い

  • 手術時間が短い
  • 手術創の大きさは4cm程度で、術後の痛みも軽い
  • 再発率が低い
  • 医療機関によっては、日帰り手術も可能
※ 当院外科でもヘルニアの手術は、原則としてこのような「人工の膜(メッシュ)を利用した腹壁補強術」を行っています。